気が付けば、一月ほど彼に会ってなかった。
講習やらミーティングやら時間を拘束されて、終電を終えた後はまっすぐ自分の部屋に戻る生活。
しかし、会ってないというのは正しくない。
接続相手だし、そこへ向かうときや出発するとき、時折並走している。
ちょっとしたアイコンタクトなら、毎日している。
けれど、やっぱり「会っている」とは違う気がする。
今夜も終電を終えて部屋に戻る道すがら、手がズボンのポケットを探る。
ほとんど使わない携帯電話。
使わない理由は、その番号を知っているのも、登録されている番号もただひとりしかいないから。
そもそも契約者は有楽町ではなく。
ポケットの中の電話を持て余す。
……こんなの、渡されても。
でも、もう一月。このまま自然消滅するのかも、とふと頭をよぎる。
手の中の携帯電話がやたら重たく感じる。
こんなの渡すんなら、そっちから連絡くれてもいいのに。
ポケットから手を出す。電話も一緒に。
ぱかっと開き、着信履歴を表示する。
表示された名前は全部同じ。ちょうど一ヶ月前で止まっている。
ボタンを押しかけて、指先が躊躇った。
……今、何してんだろう。
こっちの都合でこんな時間にかけたら、迷惑かもしれない。
「…………」
ぷちっとボタンを押し、表示を消した。
ぱたんと畳んでポケットの中に突っ込んだ。
こんなの渡すくらいなら、そっちからかけてくればいい。
それとも忘れたのだろうか。
自分だって彼だって接続相手は一人じゃない。
……忘れられたのかも。
「…………」
ポケットの上からぎゅっとそれを掴んだ。
「……俺だって忘れるからな」
それは嘘だ。自分で分かってる。
顔を合わせるのは毎日で。
でも言葉を交わすのは一月なくて。
「…………」
ふぅと溜息をついて、有楽町は重い足取りを進めた。
ポケットの中のそれの重みの分だけ、心が重かった。
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