鳩と電波と





ホームのベンチで並んで座っている。
手にはぬるくなった缶コーヒー。
山陽新幹線と八高線。
他人からすれば、共通項のない二人。
「そーいえばさー」
山陽新幹線が話し出す。
「何ですか」
いつもかけているサングラスは外して胸ポケット。
山陽新幹線は興味ありげにその顔を覗き込む。
「連絡手段が鳩ってマジ?」
八高線は目を瞬いた。
「誰から聞いたんですか」
「んー誰だっけなぁ」
頭上を振り仰いで思い出す仕草。
「まあ、いいですけど」
八高線はポケットに手を入れる。
そして、引き出したそこには携帯電話。
「なんだ、ケータイ持ってんのか」
「一応、緊急の連絡とかありますからねー」
「知らなかった」
山陽新幹線は長い足を投げ出した。
「まあ、鳩も使いますけど」
ホームをとことこと歩いている鳩を指差す。
「えっ、マジ?」
「さあ、どうでしょう」
はぐらかすような答えに、山陽は横目で八高を見た。
「ケータイ持ってんのも知らなかったぜ」
「聞かれなかったから」
「あー、聞きそびれたんだな」
持っていた缶を傾けようとして、中身がないことに気が付く。
「じゃあ、アドレス交換しようぜ」
缶を持ってない方の手で携帯電話を取り出す。
「いいですよ」
と言いながら、八高線が手に乗せたのは鳩。
「お前、何処まで本気?」
「八高はいつでも本気ですよ」
「うさんくせぇ」
山陽は笑った。
八高の手から鳩が飛び立つ。
それを見送って。
手にあるのは空になった缶コーヒーと携帯電話。
無事にアドレス交換が行われたかどうかは別の話。





いくらローカル線だって、携帯電話くらい持ってるだろうと。
でも、鳩も使うよ!多分。という主張。



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