「あれ?」
新木場のホームに入る時、いつも真横を走っている彼がいないことに気が付いた。
「埼京線のあおりで遅延かな」
特にラッシュ時は時刻表通りに発着することが珍しい乗り入れ相手だ。
さりげなく回復運転をしているのは本人から直接聞いた訳ではなくても知っていた。
新木場で折り返すので、空いた時間を持て余す。
けれど、りんかいは一向に姿を現さない。
埼京線やその他JRに何かあったとしても、大崎で折り返し運転をすれば済む。
それでも来ないということは。
「あれ?」
――何で気にしてるんだろ。
りんかいが動こうが止まろうがあまり影響はない。
そりゃ困る乗客はいるだろうが、心情的に有楽町には関係ない筈だった。
しかも、りんかいは自分に……。
「あ、そうか」
嫌いな相手だから動向が気になるのか。
「嫌い……」
決まってる。あんなことをして。
反省の言葉もなく。
ただ淡々と。
時々挨拶を交わすだけ。
「あっ!」
気付けば発車時刻を一分過ぎていた。
慌ててホームから走り出す。
一分ぐらいなら東上に乗り入れる前に回復できるだろう。
自分のせいで東上が遅延することになるのはダメだ。
西武はうるさいだけだけど、東上は。
自分がそうしたくないのだ。
しかも、理由がない。
強いてあげれば。
りんかいが来ないから。
――ちがう。
そんな風に言ったら、まるで待ってたみたいだ。
待っている理由なんてないし、顔を合わせるのは未だ気まずい。
「……疲れてるのかな」
一分の遅延はそういうことにした。
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