「…………」
一瞬「彼」かと思った。
シルバーのボディにイエローのライン。
そして、一瞬で「彼」がこんなところにいる筈ないと理性が囁く。
新宿大ガードを駆け抜けた車体。
あれは総武線だ。
イエローのラインしか共通項はない。
けれど、一瞬。されど一瞬。
「彼」のことが頭をよぎった。
そこまで。
想っていたとは自分でも新鮮な驚きだった。
「…………」
息を大きく吐き出す。
会いに行こうか。
金のラインカラーの「彼」に。
終電を見送って、有楽町はふぅと長い息を吐いた。
今日も一日無事に過ごせた。
昨日は西武池袋で人身事故があった関係でどたばたしたけれど、今日はいたって平穏な日だった。
誇らしげに胸を張り、列車の去っていった先を眺めていた。
そうしたら、背後から靴音が近付いてくるのに気付いた。
終電が出てしまったことに気付かない酔漢だろうと推測する。
「お客さ――」
振り返ろうとした肩をぐいと引き寄せられた。
背後から抱き寄せられる格好に困惑する。
酔っ払いにしては酒臭くないなと思いながら、振り向こうとした。
その顎を捕えられて。
「え――――」
唇を奪われた。
近すぎる視界に映るのは見知った顔で。
だから、腕の中から抜け出そうとするのを忘れた。
「――――りんかい?」
普段なら、こんな強引なことはしない。いつも余裕の薄い笑みを浮かべていて。
「何かあった?」
「ん?」
もういつもの薄い微笑。
背後から肩を抱かれているなんて、まるでいちゃついてるアベックのようだ。
けれど、りんかいが放そうとしないので、有楽町はそのままでいた。
終電は先刻行ったし。
耳元でりんかいが息をするのが聞こえる。
背中に感じる布越しの体温。
今更のように鼓動が弾み出す。
「どっちの部屋に行く?」
その問いに、有楽町は掠れた声で応えた。
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