休憩室に入ると、宇都宮が一人で缶コーヒーを飲んでいた。
「お疲れ」
「お疲れ」
言われた言葉をそのまま返しながら、高崎は自動販売機の前に立った。
ボタンを押してから、それが宇都宮と同じものであったことに気付く。
まあいいかとそれを手に、宇都宮の向かいに腰を下ろす。
プルトップを開けて、中の液体を喉に流し込んでいると、つられたように宇都宮も手の中の缶を傾けた。
「……なぁ」
「何?」
ふと目についたので、声をかける。
「指、長くねぇ?」
「そんなことないよ。同じくらいでしょ」
「そうかぁ?」
ことりと缶を置いた宇都宮の手元をじっと見る。
節の目立つ男の指。
「そんなに言うんなら、比べてみる?」
宇都宮が掌をこちらに向ける。
「ああ」
手首の位置を合わせ、それから掌、指へと接していく。
「あれ?」
指先がぴたりと同じ高さで揃う。
「だから、言ったでしょ」
「だって、先刻は」
「それとも遠回しに自分の指が長いって言ってる?」
「そんな訳ないだろ!」
接触した掌から、じわりと伝わる熱。
しっとりと湿ってきたような気がして、落ち着かない。
「もう分かったよ」
高崎は手を引いた。
離れる体温を少し惜しんで、それからそんな自分に驚く。
「高崎って」
「何?」
見透かされたのかと、思わず手をテーブルの下に隠す。
「時々面白いこと言うよね」
「何だ、それ」
まだ掌に宇都宮の体温が残っている。
宇都宮は缶を取り上げ、中身を干した。
その指をやはり目で追ってしまう。
「じゃあ、先行くから」
立ち上がって、空になった缶を捨てる。
「あ、ああ」
高崎は自分の缶を両手で包むように持った。
結露した滴が冷たく掌を濡らす。
「高崎」
「何」
「面白かったよ」
「うるせー」
ドアのところにいる宇都宮を振り返ってやらない。
ドアの開閉音が聞こえて、ふうと息を吐く。
高崎は掌に残る感触を消すように、缶を強く握り締めた。
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