騒がしい足音に振り向くと、高崎が物凄い勢いで走ってくるところだった。
「う、うつのみ……」
息が乱れて、話にならない。
「どうしたの?」
ぜえはあと肩で息を継ぐ相手に首を傾げてみせる。
「どうした、じゃない!宇都宮、おま――」
そこでゲホゴホと咳き込んだ。
「少し落ち着いたら?」
「んな、お前……」
ふう、と大きく深呼吸ひとつ。
「遅延してるくせに伊勢崎の振替やるってどういうことだよ!」
一気に言うと、またゲホゲホと咳き込む。
「どういうって、振替要請きたから」
対する宇都宮は落ち着き払ったもので。
「お前、それだって時と場合が!」
「あれ?もしかして」
宇都宮が人の悪い笑みを浮かべる。
「心配してくれてたりする?」
わざと顔を覗き込むように身を寄せる。
「心配するに決まってんだろ!」
「自分の架線も危なくなるもんね」
間髪入れない宇都宮に、高崎はぐっと息を詰まらせる。
「ちがう!そんなんじゃなくて!」
「じゃあ、どういうの?」
「え?…………」
少し考えてから、
「いちいち説明することじゃないだろ!」
顔を少し朱に染めて言った。
「うん。まあ、そうだよね」
「何か裏ありそうな言い方すんな」
「うーん」
宇都宮が指先でくいくいと招くので顔を寄せる。
「何?」
「――ありがと」
鼓膜に落とし込むように囁いた。
「――――!」
くすぐったさに身を引きかけると、顎を捉えられて固定される。
唇を掠めていく感触。
「――――っ!!」
「お礼」
しれっと告げる宇都宮に対して、高崎は肩を震わせる。
「宇都宮!」
「さ、行こ」
「てめぇ!あ、待て!」
顔を真っ赤にした高崎を置いて、宇都宮はさっさと歩き出す。
足音がすぐに近付いてくるのを聞いて、笑みが零れるのを止められなかった。
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