たまにあるこんな夜





つまずいてから、物があったことに気が付いた。
終電も過ぎた深夜。非常灯のみの構内は暗く、静かだ。
新木場駅のりんかい線改札から有楽町線に向かう途中。ちょうど真ん中、京葉線改札前。
始発が動き出したら、さぞや乗客に迷惑をかけるだろう。
非常灯の緑の明かりに目を凝らすと、案外大きい塊がもぞもぞ動いた。うにゅ、とうめき声が聞こえ、それが身を起こした。
「……有楽町?」
薄明かりに知った顔が映る。
「ん〜」
何でこんなところに寝てるのか、聞かなくても分かった。
ぼんやりと床を見ながら、ぼさぼさになった髪を掻き上げたりしている。
「風邪ひくよ」
しゃがんで目線を合わせる。途端に鼻をつくアルコール臭。
「あーりんかいだー」
にっこりと全開笑顔で笑って、首にかじりついてきた。酒臭い息が首筋に当たる。
しかも呂律が怪しい。
内心、しまったと思った。酔っぱらいの世話はあまりしたくない。
しかし、捨てていくには邪魔な場所なので、とりあえず移動させなければならない。
腰に腕を回すと、更に首をぎゅうと引き寄せられる。今までこんな風に甘えられたことがあっただろうかと首を傾げる。
どうにか立ち上がり、有楽町の乗務員室へと引きずるように歩き出した。
くふふ、と耳元で含み笑いが聞こえた。
「有楽町?」
「んーりんかい〜」
変なイントネーションでりんかいを呼ぶと、りんかいの顔を両手で挟んでくちづけてきた。
唇を深く合わせて、薄く開いた隙間からぬるっとした舌が滑り込んでくる。
りんかいが眉を寄せたのはその感触のせいではなく、有楽町の口内に残った酒の味だった。
押し退けることもなく、与えられるまま甘受する。やがて満足したのか、有楽町が顔を離した。
「……する?」
首を傾げながら、回らない舌でそんなことを言った。
答える代わりに、りんかいは有楽町の中心に触れた。存在を確かめるように緩く揉む。
「んっ……りんか、い……」
有楽町の肩が跳ねた。腕はまだりんかいの首に回したままだ。
その腕に力が籠り、再度唇をねだってくる。濡れた唇。
「ん、んんっ」
揺れる腰。
舌を絡めて、互いの口腔を味わう。
りんかいは有楽町自身に這わせた手をゆっくりと動かした。逃げようとする腰に腕を回して固定する。
「…………っ」
不意にがくりと有楽町の体から力が抜けた。
「有楽町っ!?」
思わず声を張り上げてしまった。
腰に回した腕でひっかかったその体を引き寄せて、顔を覗き込めば。
「……すー……」
寝息が聞こえた。
「…………」
一瞬、その場に捨てていこうかと本気で思った。
しかし、始発が動き出すと自分のところの乗換客が騒ぐだろう。――不審物だと。
いっそ有楽町線ホームのベンチに置いてこようかと思ったが、ホームに降りるには階段を使わなければならない。
「…………」
りんかいは深く溜息をつくと、眠ってしまった酔っぱらいの体を引きずって、最初の目的地を目指した。





医者の待ち時間にケータイ打ち。まるまる一本書けました。
そしてトイレ行ってる間に順番が来て飛ばされたり……‖orz(何やってんの)
期待した方、すみません。この鯖は年齢制限×なのですよー(と言い訳)



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