「楽しかったですねー」
手を繋ぎながら、西武有楽町の部屋に向かう。
西武有楽町は無邪気な笑顔で話しかけてきた。
「そうだな。たまには騒ぐのも悪くないな」
西武池袋は小さな同士の顔を見て応じる。
「でも、よかったんですか?」
「何がだ?」
「私も片付けるのを手伝わなくて」
「そんなことはお前が気にしなくていいんだ」
と言いながら、優しい西武有楽町の気遣いを嬉しく感じる。
――会長、西武有楽町はまっすぐに育っています。
と内心で思ってしまうくらい。
「西武新宿組に任せておけばいい」
今頃、パーティーの後片付けをしているだろう西武新宿、西武国分寺、西武拝島を思って言う。
「そういえば、西武多摩川にひさしぶりにあいました」
「そうだな。私も久しぶりだが、元気そうでよかった」
「はい。よかったです」
西武多摩川は西武線との接続をもたない孤立線だ。
行事でもない限り、会うことは滅多にない。
西武新宿線の上石神井から係員が出張することもあって、西武新宿だけは往来があるらしいが。
「西武園や多摩湖線とも会うのは久しぶりだったろう?」
「はい。みんな元気でよかったです!」
「そうだな」
西武有楽町の笑顔を見ると、一日の疲れも去っていく。
そうこうしているうちに西武有楽町の部屋の前に着いた。
ドアに手をかけようとした時、西武有楽町が握った手にぎゅっと力を込めた。
「ん?どうした?」
「あの、西武池袋におねがいがあります」
「何だ?」
「あの……」
西武有楽町はもじもじと制服の裾をいじる。
「あの、いっしょにいてもらえませんか?」
「どうした?一人では眠れないか?」
怪訝な顔をすると、西武有楽町は意を決したように見上げてきた。
「サンタさんが来たら、おこしてほしいのです」
「――――」
「西武池袋はしんじてないんですか?」
悲しい顔に、否、と首を振る。
「この一年、西武有楽町は頑張ったからな。きっと今夜は来るだろう」
「サンタさんにいいたいことがあるのです」
「何だ?」
「それは……まだ言えません」
そう言われては聞き出すことはしない。
「そうか。では、私は起きていて、サンタを待っていよう」
柔らかい髪を撫でてそう言うと、西武有楽町は笑顔を見せた。
「はい!おねがいします!」
ドアをかちゃりと開け、西武有楽町の部屋に入る。
子供の部屋とは思えないほど、綺麗に片付いている。
仕事ばかりで遊ぶことが少ないことに、西武池袋は心を痛めた。
その部屋の中央で、西武有楽町は寝間着に着替えて、ベッドに入った。
「やくそくですよ」
「ああ。きっと起こしてやる」
「はい」
目を閉じる子供の顔をじっと眺める。
メトロとの乗り入れも文句の一つも言わずにこなしている。
幸いにもあの二人は西武有楽町を気に入っているようだから、その点では安心だが。
それでも、子供の身に難しい立場を押し付けている気がしてならない。
ほどなくして、規則正しい寝息が聞こえてくる。
そして、それからしばらく待たずにドアが音を立てずに開かれる。
「泣く子はいねぇが〜」
そっと入ってくる人影。
「それは、なまはげだろう」
「うわっ!何で池袋がここに!?」
赤い生地に白いもこもこのファーの縁取りがついた服を着た西武秩父が飛び上がる。
「頼まれたのだ。サンタが来たら、起こしてくれと」
「それはまずいんじゃないの?」
ご丁寧に口元に白いもっさりとしたつけ髭をつけている。
「とりあえず、西武有楽町にはこれ」
白い大きな布袋から赤い包み紙の箱を取り出して、眠る子供の枕元に置いた。
「おい、西武有楽町」
「え、ちょ、待って!」
西武池袋が寝ている西武有楽町の肩を揺すったので、西武秩父は焦った。
「おい、サンタが来たぞ」
「ん、んん……」
西武有楽町が眠い瞼をこすりながら、目を開ける。
「サンタさん……?」
「そうだよー。ぼく、サンタだよー」
西武秩父が開き直ってそう言う。
「サンタさん!おねがいがあります!」
がばっと起き上がるので、西武池袋と西武秩父は驚いた。
「な、何かな」
それでも笑顔をキープして西武秩父が訊ねた。
「西武池袋にもプレゼントをください。西武新宿にも西武秩父にも、西武のみんなに」
「え?」
目を瞠ったのは西武池袋の方だった。
「そ、それはどうしてだい?サンタさんはよいこのところにしか行かないんだよ」
西武秩父はアドリブを利かせる。
「みんな、よいこにしてます!みんな、頑張ってます!だから、プレゼントをもらってもいいと思います!」
「そっかー。きみはいいこだなぁ。来年は考えてみるよ」
「はい!おねがいします!」
西武有楽町は満面の笑みを見せると、ぽすんと布団に倒れた。
「せ、西武有楽町!?」
西武池袋が慌てて駆け寄ると、西武秩父は心配ないと手を上げた。
「寝てる」
「そうか……」
ほっと胸を撫で下ろす。
「よっぽどサンタさんに言いたかったんだろうな」
「ああ、本当に」
「良い子に育ったよなぁ」
「ああ、我らの誇りだ」
西武秩父は西武池袋の肩を軽く叩いた。
「西武も安泰だな」
「当たり前だ」
「じゃ、俺、次があるから」
西武秩父は白い布袋を担ぎ直した。
「サンタさんは忙しいんだ」
「ああ、頼む」
「任せろ」
西武秩父はVサインで去って行った。
「…………」
ひとり残された西武池袋は眠っている子供の前髪をそっと掻き分けた。
「本当に……」
誇らしいと思うと同時に、少し寂しくなる。
自分の役目は終わったのかもしれない。
この子供はもうひとりで歩きだせる。
「せいぶいけぶくろ……」
「ん?」
聞き取りにくかったけれど、確かに自分の名を呼ばれて顔を覗き込む。
「ずっと……いっしょに、いてください……」
「――――」
この子供はどうして。
「ああ、ずっといるさ」
布団から出た手を握ってやる。
「うれしい、です……」
そして、すーっと寝入ってしまう。
「かなわんな」
西武池袋は苦笑いをして、長く伸ばした前髪を掻き上げた。
|