信じられないと涙で濡れた睫が瞬く。
その涙は痛みに滲んだもので。
痛みの元は脚の間に突き入れられたものだった。



たったひとつの冴えたやりかた




部屋に入ろうとする時、背後から素早く近寄って靴の爪先を差し入れた。
ストーカーや押し売りがよく使う手だ。
「――何?」
その顔は純粋に驚きに満ちたもので、ストーカーとしては面白くなかった。
身体を室内に滑り込ませ、ドアを閉め錠を掛ける。
「え? りんかい?」
手馴れた動作についていけず、きょとんと玄関に立ち尽くしている腕を捕えてベッドに引き倒した。
「え? ちょっ……何?」
まだ何だか分からないといった表情をしている。
「ドアを開ける時は、周囲に気を付けないとダメだよ」
耳元で囁きながら、素早くラインカラーと同じ色のネクタイを解いた。
「何言って――って、何して……っ」
あまりにうるさいので解いたネクタイを口腔に押し込んだ。
「ん……っ、んぐっ……!」
手首を背後でまとめ、引き抜いたベルトで縛り上げた。
「…………っ!?」
うつぶせにされた両足がじたばたとシーツを蹴り乱す。
スラックスを下着と共に膝まで引き下ろして抵抗を封じた。
前に回した手でシャツのボタンを外すのももどかしく、胸元まで捲り上げた。
指先に引っかかった尖りを何度か擦ると、ぷくりと膨れ上がった。
「感じる? 有楽町?」
確かな反応を感じて、顔を覗き込むと羞恥と屈辱に歪んでいた。
「んむ――――っ」
口の中のネクタイをどうにか押し出そうとあがいている。
「まあ、いいか」
元より快感を与えるつもりはなかった。
指を二本口内に咥え、たっぷりと唾液を絡める。
そして、脚の間のすぼまったところへと突き入れる。
「ンン……ッ!?」
びくんと跳ねる身体。
もう一方の手で双丘を割り開き、更に奥へと探り入れた。
「ふ……ン……っ」
見開いた目がりんかいを振り返った。
ネクタイに唾液が染み込み、色を濃く変えているのがいやらしかった。
「何でって言いたい? さあ、どうだろうね」
内部をぐりっと抉る。
指先に固くしこった箇所を感じた。
「んん――――ッん――――ッ!」
俯いた肩が激しく揺れた。
りんかいは小さく笑って、そこを何度も掠めた。
前に手を回せば、しっかりと反応している。
濡れ始めた先端を親指の腹で知らしめるように擦ると、視線がそこを向いた。
「……………ッ! ん、んぐ――――ッ!」
やめろというように身体を捩る。
「そんなに気持ちイイ?」
そうでないと知っていて、わざと問いかける。
「そんな顔は初めて見るね」
それは本当。
いつも営業用スマイルで、東上乗り入れの時だけ心からの笑顔を見せる。
そんな屈辱と怯えに満ちた歪んだ顔なんて、想像さえさせない顔。
くちくちと水音を立てながら、狭い入口を解していく。
「もう入れちゃおうか」
女だって、最初は痛いんだし。
そう耳元で嘯くと、これ以上ないくらい目を見開いた。
口も手足も自由にならない状態で、瞳だけが抗っていた。
強い眼差し。
いつもそんな目で見たことはない。
通りすがりに営業用の笑顔。
好意をもたれていないとは思わない。
だが、自分も他の路線と同じ扱いなのが少し気に入らない。
ただそれだけ。
だから、他の連中と違うことをした。
ただそれだけ。


腰だけを高く持ち上げた犬の姿勢で責め立てた。
律動の度に揺さぶられる上体。
まだネクタイは口中に押し込まれたままで、外にはみ出た部分が不格好に揺れている。
首を捻って、まだ信じられないといった表情でりんかいを見ていた。
何もかもが予想外の出来事に違いない。
力尽くで押し倒され、男に犯されて、しかもその相手が顔見知りなんて。
いつも人当たりのいい表情を浮かべている顔が歪んでいる。
初めて見るその顔に愉悦と優越を覚える。
それはダイレクトに下半身にキた。
更に激しく腰を突き立てる。
「んぐ――――ッ!」
曲げた首が痛むのか、尚更に顔が歪んだ。
さらりとした髪がひどく乱れているのが淫猥だ。
腰を掴んだ手に力を込めると、最奥を抉って欲望を吐き出した。
達かせることはしなかった。
自分だけ。
引き抜くと、白い汚液が一筋零れた。
自分のものをしまうと、ようやく手首の戒めを解いてやった。
赤く擦れて、傷になっている箇所もある。
手が自由になってもこれ以上抵抗する気力もないのか、ぐったりとシーツに沈んだ。
ただ涙を零した目が。
うつろにりんかいを映していた。
「また、来るよ」
「――――――ッ!」
口を開いたが、声にならなかった。
まだ口元にネクタイを咥えたままだったからだ。
「まだ、足りないでしょ?」
脚の間で萎えたものを弄ってやるとようやく逃げようとした。
「それは、次の楽しみにしておくよ」
ベッドの隅へと身体を丸めるのを小さく笑って見遣る。
「じゃあ、また新木場で」
びくりと肩が震えた。
「――お前なんて…………」
口からネクタイをむしりとって叫んだ言葉は閉じた扉に阻まれた。





前の話とは微妙に続いていないと思われます。
年齢制限にならないように全力を込めました。そりゃもう全力で!
しかし、ここまでゴーカンになるとは思わなかった…酷いよ、りんかい。



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