Nothing seek, Nothing find





ただの顔見知り、というか必然的に知らなければならなかった。
接続先。
そんなのはたくさんいる。
乗り入れ先も二つ。ただ駅で接続してるだけなら、たくさんいる。
JRもメトロも都営地下鉄さえも。少し歩けば都電にだって繋がる。
そんな中の一人だった。
だからといって、礼儀を欠いた覚えはない。
必要事項はちゃんと伝えているし、顔を合わせれば挨拶もする。
だから、どうして。
――こんな仕打ちを受けなきゃいけないんだよ?
傷の痛みはすぐに引いた。
しかし、心は。
ベッドで眠れなくなった。
軋む音が行為を思い出させて、喉元までせり上がるものがある。
床に転がって布団を身体に巻きつけて。
だから、最近身体が軋んで仕方ない。
西武に老朽化とかからかわれている。
新型車輌導入したばかりだって知っているくせに。
「そりゃ、車内の電光表示板間違えたことあるけど」
新木場を出たばかりだったのにうっかり『豊洲』って表示してしまった。
すぐに間違いに気付いてアナウンスしたし、そもそもその時間帯の上りなんて乗客はほとんどいない。
そんなことをいつまでも覚えている連中に苛つく時もたまにはあるが、それだって表に出したりはしない。
仕事だから。
いちいち感情を出していたら勤まらない。
今だって。
辰巳を過ぎて、もうすぐ新木場。
新木場には奴がいる。
いきなり部屋に上がりこんでヤるだけヤって去っていった奴。
今でも怒りに身体が震える。
だけど。
仕事だから。
避ける訳にはいかない。
しかも間が悪いことに、ほぼ同時にホームに入る。
なるべく顔を見ないように。
けれど、あからさまに避けていると思われるのも癪だ。
女じゃないんだ。
あれはただの一方的な暴力だ。
理由は分からないが。
時折、視線を感じるのは知っていた。
それだって、同じ駅に接続するもの同士、視線を交わすのは当たり前のことで。
向こうから反応がなくたって、とりあえず挨拶はする。
視線にそれ以外の意味なんて思う筈がなかった。
だって、仕事以外の何がある?
毎日路線を走って、たまに遅延や運休で他路線からクレームもらって。
たまに、こちらからもクレームつけたりして。
特に乗り入れしていると色々面倒で。
だから、終点で接しているだけの彼らは割と接しやすい相手でもあった。
それがどうして、どうなって――
手首にうっすらと浮いた傷跡。
悪夢だったと思い込みたいのを、それが妨げる。
真っ直ぐに前を向いてホームに進入する。
横顔に痛い程の視線を感じる。
わざとだ。
あれ以来、ずっと有楽町のことを見るようになっている。
絶対にわざとだ。
そんな風に人を傷付けて痛めつけて楽しいのか。
そう言ってやれたら、どんなにいいか。
けれど、言えない。
仕事だから。
もし自分とりんかいが揉めて、運行に支障が出たら。
特に乗り入れてる東武と西武に影響が出るだろう。
接続してる他路線にも迷惑をかけるかもしれない。
だったら。
向こうが何もなかったような態度をとるなら、それに合わせるしかない。
しかし、何かあったような態度をとられても困るのだが。
埼京線に乗り入れるようになったように、有楽町の路線にも乗り入れたいのかとも思った。
けれど、それの何処にメリットがあるのか見出せない。
有楽町の乗客をりんかいと乗り入れるようになった埼京線に多少なりと奪われているのだし。
そもそも山手じゃあるまいし、池袋に行くのにぐるっと回れるようになって何が面白いのか。
――じゃあ、何で?
思考はいつもそこで行き止まる。
そんなに自分のことが気に入らないのだろうか。暴力に訴えたくなる程に。
そこまで嫌われるようなことをしただろうか。覚えがない。
「…………はあ………」
溜息をついていたら、オーバーランしてしまった。
「……ああ、またクレームが……」
自分で胃が痛くなる原因を作ってしまった。
もう分からない。
けど、訊く訳にもいかない。
――どうして、自分を犯したのか、なんて。
好きとか嫌いとか、そういう感情ではないようなのは分かる。
しかし、どんな種類の感情がそうさせたのか、まるで分からない。
まだまだ毎日毎日。
こんな日が続くのか。
有楽町は憂鬱だった。

だから、ホームに入ってからも視線を注がれていることに気付かなかった。





タイトルは「求めよ、さらば見出さん」ですね。
前のゴーカン話の後日譚です。有楽町ぐちゃぐちゃしてます。
なんか、りんかいが報われてない気がするのは気のせいですか。

電光表示板が間違ってたのは事実。冬コミの日のことでした(笑)
「辰巳」の存在を忘れないでー!



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