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宇都宮は眉根を寄せて、モニターを見つめていた。そこにはひとつの画像があった。
 彼の斜め前に座る部下兼恋人の姿が。
 濃紺のワンピースに白いふりふりのエプロンをつけた姿で、はじけんばかりの笑顔を見せている。
 いわゆるメイド服という服装だ。
 勿論彼――高崎が好き好んでその格好をしたのではない。
 合成画像だ。
 そもそも元画像は隠し撮りである。
 確か会社の近所の弁当屋で、限定十食の焼き肉弁当を買えた時の笑顔だったか。
 (やはりメイド服はロングスカートだよね。靴は編み上げのブーツ……)
 経費の承認をする時以上の厳しい表情である。
 マウスボタンをクリックすると、高崎の履いていた靴がブーツに変わった。
 襟はきちんと一番上のボタンまで留めて。
 (きっちり着込んでいる方が、脱がす時に楽しいんだよね……)
 厳しい表情のまま妄想に入る。
 まずフリルのついた白いエプロンを外して。
 首元からボタンをひとつずつ外して。
 リボンのついた濃紺のワンピースはまずリボンを解いて、それからゆっくりと脱がせて。
 その下の白いブラウスは全て脱がさずに腕に引っかけて。
 編み上げのブーツの紐を解いて。白い靴下は履かせたままで。
 ふといつもの高崎を思い出す。
 ネクタイを解く時、いつも高崎は躊躇った顔をして瞳を泳がせる。
 (その顔が可愛いんだよね……)
 そして再びメイドの高崎妄想に戻る。
 脱がした後、ベッドに押し倒すのもいいし、メイドらしく奉仕してもらうのもいい。
 その時もきっと躊躇った顔をするだろう。
 (どっちがいいかな……。うーん、どっちも捨てがたい……)
 宇都宮は腕を組んで、メイド服で微笑む高崎の画像を凝視した。
 
 
 「ねえ、部長、何かトラブルでもあったのかしら」
 向かいの席から女子社員が高崎に話しかけた。
 「特に聞いてないけど。何で?」
 女子社員は声を低めた。
 「だって、あんなに難しい顔してるわよ」
 言われて、高崎も斜め前の上司の顔を見た。
 「ホントだ」
 「ね。深刻なトラブルでもあったのかしら」
 「何だろうな。まあ、こっちに害が及ばないことを祈るよ」
 宇都宮の悩みの種が自分であることは露知らず、高崎はそう言った。
 そして視線を返すと、自分の業務に戻っていった。
 
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