資料室





 イースト商事入社三年目。
 高崎は会議の資料を取りに資料室にいた。
 普段から利用者の少ない資料室は埃っぽく、時間を経た紙特有の匂いが充満していて、長居したい場所ではなかった。
「何処にあるんだよー」
 メモを手に書棚に目を走らせる。
 会議があるからとお気に入りのスーツを着てきたのが、仇になった。上部の資料を取る度に埃が降ってくる。
「あ、あった」
 メモにあった本をようやく見つける。
 高い位置に納められたそれを腕を伸ばして取ろうとした時。
「!」
 背後から抱きすくめられた。
「なっ、何っ?」
「資料探しに何時間かかってるんだい?」
 耳元で囁かれた声。
「うっ、宇都宮っ?」
「宇都宮、部長でしょ」
「……部長、何の用ですか」
 腰に回された腕が動かないので、高崎は首だけ振り返った。
「高崎があまりに戻ってこないから、様子を見に、ね」
「って、何して……」
 宇都宮の手がネクタイの結び目にかかるのを不審な目で見る。
 振り解こうにも両手に資料を持っている為、身じろぐことしかできない。
 そうしている間にネクタイが解かれ、その下のシャツのボタンを外し始める。
「ちょっ! 冗談なら、この辺でやめろよ」
「どうかな」
「っ!」
 シャツを開かれ、素肌に直接触れられる。
 宇都宮の手が冷たくて、高崎はびくんと肩を跳ねさせる。
「相変わらず敏感だね、高崎……」
「ちが……っ!」
 語尾が跳ねたのは、宇都宮の指が胸の突起に触れたからだった。
「少し触っただけなのに、もう固くなってるよ」
「やめ……っ」
「こっちも反応してる。高崎の体はキモチイイことが好きだよね」
 宇都宮は高崎の下肢に手を伸ばした。スラックスの上から緩く揉む。
「やだっ……触るな……っ」
 ばさばさと高崎の手から資料が落ちる。高崎は宇都宮の手を掴んで引き剥がそうとするが、与えられる刺激に震えてしまい上手くいかない。
「高崎、資料は大切に扱わないとダメだよ」
「だったら、離、せ……」
「こっちは、もっと、って言ってるのに?」
 きゅ、と胸を摘まれ、中心を揉まれる。
「……あっ……や、だ……っ」
 足の力が抜けていく。
 宇都宮がベルトを外すのに抗えない。
「あっ!」
 直接中心に触れられ、声が出てしまう。
「そんな声出したら、誰か来ちゃうよ」
 宇都宮が楽しげに囁く。
「だったら、……やめ……っ」
「どうしようか?」
 かぷ、と耳朶を軽く噛む。
「あ、はあっ!」
 びくびくと震える体。
 先走りに濡れた高崎自身が引き出され、乾いた空気に晒される。
「もうこんなに濡らしちゃって、はしたないなぁ」
 言いながら、宇都宮は高崎自身に指を絡め扱いた。もう一方の手で痛い程胸を摘む。
「あっ、あ……っ」
 くちょくちょと濡れた音が静かな室内に響く。その音に羞恥を覚える。
「高崎の、もうカチカチになってるよ……イキたい?」
「やっ、やだあ……」
 がくがくと震える膝。
 高崎は体に回された宇都宮の腕に縋りついて、ようやく立っていた。
「イキたくない? でも、このままじゃつらいよね」
 つ、と指先で裏側の筋をなぞる。
「は、ああ……っ」
 高崎の口から悲鳴に似た声が漏れる。
 その時、場にそぐわない電子音が響いた。
「っ!」
 高崎は身を固くして口を閉じる。
「いいところなのに」
 宇都宮はスーツの内ポケットから携帯電話を取り出した。
「!」
 電話を開いて通話を始めようとした宇都宮に、高崎は慌てて手で口を塞いだ。
「何? ……分かった。すぐ行く」
 すぐに電話を仕舞って、宇都宮は高崎の耳元に唇を寄せた。
「じゃあね、高崎」
「えっ?」
 高崎が振り返る前にするりと手を引いた。
「じゃあって、何……」
 言い終わる前に宇都宮は資料室から出て行った。
「ちょ、な……っ」
 乱れた服装のまま、高崎は呆然とした。
 足下には資料が散乱している。
「何なんだよー! これ、どうしろと……」
 露わになっている自分自身を見下ろして、高崎は泣きそうになった。





ツイッターで始まったリーマンうつたか。
会社の至るところで上司にセクハラされる高崎くんの運命や如何に?



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