「有楽町はりんかい待ってんの?」
「え?」
新木場駅の改札前でうろうろしてたら、京葉に声をかけられた。
所属が違うし、ホームの階層が違うのでお互いに声をかけることはあまりない。
二重の意味で驚いて、有楽町は咄嗟の言葉を失った。
「……いや、別に待ってるワケじゃ――」
「あいつ、結構薄情だよね」
「そうかな?」
「こうやって同じ駅にいるのに、挨拶もろくにないし」
それは自分も同じなので、有楽町は黙っていた。
「昔のことはもうどうでもいいってことなのかな」
「――昔?」
有楽町は首を傾げた。
りんかいと京葉が何があったっていうのだろう。
この場に武蔵野がいれば、「昔ったって、車両基地を貸してただけじゃん」とつっこんだだろうが、生憎朝からの強風で運休を決め込んで出てこない。
「昔、ちょっとね」
思わせぶりに笑う京葉に、有楽町は胸の中がざわつくのを感じた。
「さて、そろそろ行くよ。地下を走ってる君達には風なんて関係ないだろうけど」
「ああ、じゃあ」
一応、二駅間は地上を走ってるんだけど、という言葉を呑み込み、有楽町は京葉を見送った。
「…………」
しばらく呆然と立ち尽くす。
りんかいがTWRと呼ばれていた頃から新木場駅を共有しているけれど、親しくなったのは最近の話。
親しい、という言葉には語弊がある。
けれど他に表す言葉は見当たらなかった。
「昔って……」
今の自分達の関係を思うと、京葉とも何かあったかと勘繰ってします。
りんかいは誰彼構わず手をつけているとは思わない。しかし飄々とした態度からは過去のことなんて全く読み取れない。
「行こうか……」
京葉の言った通り、ダイヤの合間に彼を待っていたのだが、今の状態で会いたくなかった。
踵を返し、自分のホームへ向かう。
「――有楽町」
だが、間の悪いことに。
背後から知った声が有楽町を呼んだ。
「りんかい……」
足を止めて振り返る。
「待っててくれた?」
「あ、うん……」
何処となく後ろめたさを感じながら、有楽町はりんかいが近付いてくるのを待った。
「どうしたの?」
「え、別に――。さっき、京葉がいて……」
「ああ」
りんかいは小さく笑った。
その表情の意味が分からない。
「何か言ってた?」
「いや、特に……」
今、聞けばいい。
京葉と何かあったのかと。
しかし。
「俺、そろそろ行かないと」
有楽町は自分のホームを指差した。
聞けるはずがない。
だって、それは何だか嫉妬深い女のようで。
かっこわるい。
「じゃあ、また後で」
そう言ったりんかいに、曖昧に笑って手を振った。
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