「西武池袋線が運休だって?」
営業のサラリーマンのような笑顔が返る。
「運休してるのは特急と乗り入れだけだよ」
「じゃあ、暇なんだ」
そこでやっと困ったような苦笑を見せる。
「もともと東上乗り入れがメインだからね。そんなに変わらないよ」
「そう。じゃ、東上線も止まればいいのに」
わざと冷たくそう言った。
「そうなったら、困るよ」
それでも笑顔は崩れない。
冗談だと思ってるのも分かってる。
笑顔は処世術。
接続先相手の、ただの世間話。
「まあ、台風でも来れば話は別だけどね」
はは、と笑う。
それも何処か営業的な感じがする。
本人はそんなつもりはないのかもしれない。
無意の好意。
多分それだけ。
「そっちは?やっぱり埼京が遅れてる?」
形式的な問いかけ。
「ああ。――いつものことだよ」
肩を竦めて見せる。
話を合わせて。
「最近、線路内点検って多くない?」
「よく知ってるね」
「そりゃ、振替要員だからね」
その笑顔。
やっぱり営業的にしか見えない。
――振替要員だから。
だから、気になる?
誰を?
「あ、そろそろ行かないと」
「東武乗り入れ?」
彼は小さく笑った。
それは営業的な笑顔じゃなかった。
「東上って言わないと気悪くするよ」
「……せいぜい気をつけるよ」
「じゃあ、また」
手を振って去って行く。
その時、自分の笑顔が作り物だったのは自覚していた。
彼は気付かなかったと思う。
だって。
自分でも何故作り笑顔なんかしたのか分からないのだから。
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