「高崎、今空いてる?」
近寄ってくる長身の男に、高崎はあからさまに嫌な顔をした。
長身といったって、自分と同じ高さ。
同じ架線を使う仲間……というには語弊がある気がする。
「何、宇都宮?」
渋面を作ったまま答えると、そいつは嘘臭い笑顔を張りつけたまま手を上げる。
「やだなぁ、そんなに警戒しないでよ」
警戒されると、何かしたくなっちゃうじゃない。
あっけらかんとそう言われて、ますます身を固くする。
「だから何だよ、宇都宮」
「ただお茶でもしないかってだけなんだけど?」
「ああ?」
まだ不審そうな顔の高崎に、宇都宮はとびきりの笑顔を作る。
それが一番胡散臭いことは高崎含め他のJRも宇都宮本人も分かっている。
「…………」
「何も入れないから安心して」
語尾にハートマークがつきそうな口調で言う。
「それを自分で言うなよ……」
言おうとしたことを先に言われてしまった高崎はがっくりと肩を落とす。
「……まあ、いいけど」
少し休憩してもいいだろう。
仏頂面でOKを出すと、やっぱり満面の笑顔が返ってくる。
……お前な、その顔やめろよ。
そう言えたら、どんなに楽か。
宇都宮が腹黒なのは皆知っている。
何を言ったって、宇都宮は気にも留めないだろう。
自分の思った通りにしか動かない。
ひねくれていて。
腹の中で何を企んでいるか分からない。
だけど。
何故か。
「何にする? コーヒーでいい?」
「ああ」
「砂糖なしでミルク入れるんだっけ」
「ああ」
――嫌いになれない。
同じ架線を使う同士だから?
たぶん、それだけじゃない。
「お前は?」
「ん? 僕はブラックで」
「むかつく」
「何で?」
張りついたような笑顔に、ほんの少し本音が見えた気がした。
「お前のそーゆーとこ」
「ふぅん」
さして気に留めた風もなく。
だから、
「むかつく」
差し出されたカップを受け取って、もう一度呟いた。
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