「また信号機故障だって?」
休憩室に入ってくるなりの言動に、高崎はむっとした。
「うるせー」
近寄ってくる宇都宮を、眉間に皺を寄せてあからさまに不機嫌な表情を作る。
「よくそんなに壊せるもんだね」
「知るか。壊したんじゃなくて、壊れた、だからな」
テーブルの上の紙コップを取って、とっくに冷えた中身を一息に流し込む。
宇都宮は高崎の許可もとらずに向かいに腰を下ろす。
「もうさ、いっそ」
「いっそ、何だよ」
宇都宮の指が伸びてくるのを身を引いて警戒する。
「そんなに逃げないでよ。そんなに僕が怖い?」
「ばっか。宇都宮が怖いなんてあるワケないだろ」
「ふぅん。じゃあ、こうしても?」
宇都宮が椅子から立ち上がって身を乗り出しても、高崎は今言った言葉の手前動くことはできなかった。
自分と似た顔が迫ってくるのをただ黙って見ている。
宇都宮の指が高崎の顎を捉えた。
そして。
「――――っ!」
軽く唇が重なる。
誰でも入れる休憩室で。
今は二人しかいないことを天に感謝した。
「……嫌がらせかよ」
「さあ、どうかな」
宇都宮は笑顔を浮かべて、元の位置に戻った。
言わなかった言葉の割にはキスが甘くて。
まだ、言わなくていいと思った。
「そういえば、お前、さっき何か言いかけなかった?」
「そうかな」
「ないんなら、いいけど」
高崎は唇を尖らせて、椅子の背に凭れかかった。
パイプ椅子がぎしぎし軋む。
「こんなとこで遊んでていいのかよ。どうせそっちは定時運行だろ」
「だから、そろそろ行くよ」
言葉通りに宇都宮は立ち上がった。
「そんな顔されると、連れて行きたくなっちゃうんだけど」
「俺がどんな顔してるんだよ!」
「あ、今の顔、サイコー」
「何処ぞの映画監督かよ!」
「映画って言うか、むしろA――」
「言うなっ!」
高崎が顔を真っ赤にして怒鳴る。
「さっさと行けよ!」
「寂しいな」
「早く行け!」
高崎の言葉に押し出されるように、宇都宮は休憩室から出た。
「……本当に聞きたかった?」
ドアの外で呟いた。
――いっそ、僕のものになっちゃいなよ
なんて言葉。
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