「西武池袋、くりすますって何ですか」
藪から棒に訊ねられ、西武池袋はまず睫毛を上下させた。
「そんなことも知らないのか、西武有楽町」
小さな相手を見下ろして応じる。
そういえば、彼は地下にしか駅を持たないことに気付いた。
この時期の地上のイルミネーションとは縁がないのを。
案の定、小さな西武有楽町は望んだ答えが得られなくて、不機嫌そうに地面を蹴っている。
「……クリスマスというのは、イエス・キリストの生誕の祭りだ」
そう答えてから、それと町中のイルミネーションとの関係は説明しきれていないことに気が付いた。
しかし、西武有楽町は合点がいったのか、そうでないのかよく分からない表情で頷いていた。
「誕生日ですか。あれはお祝いですか」
小さな手が示す先はやはり華やかに彩られたイルミネーション。
夜の闇を照らすように五色に瞬いている。
「そうだ」
この国の受かれようはやはり少し違う気がしたけれど、西武池袋はそれ以上の答えを持たなかった。
「それと、子供にはサンタがプレゼントを持ってくるそうだ」
「プレゼント、ですか」
ようやっと思い出した慣習を伝えれば、子供は顔を輝かせた。
「何を持ってきてくれるんですか?」
「それは、その者が望む物だ」
「本当ですか!?」
「ああ、本当だ」
重々しく頷いて見せたものの、西武池袋は内心では緊張していた。
その子供の欲するものを聞き出して、当日までに用意しなければならない。
西武鉄道の皆で金を出し合えば、多少高額でも何とかなるだろう。
「それなら、わたしは」
「ん?何だ?」
「……今は言えません」
「どうした?言わなければ、サンタも欲しいものが分からなくて困るだろう?」
「言わなければ、ダメですか?」
上目使いに見上げてくる小さな体に、ぐらりと心が揺れかける。
「何だ?人前では言えないことか?」
「物じゃないから……」
「物じゃない?」
鸚鵡返しに繰り返しながら、西武池袋は記憶を手繰る。
物でなくて、西武有楽町が欲しがるものが何なのか、まるで見当がつかなかった。
「路線とか駅か?」
それなら、確かに自分達だけでは手に余る。
「路線……に近いです」
「近い?駅、か?」
「いいえ、違います」
まるで謎解き問答をしているようだ。
この子供の思うことが分からないなんて、どうしたことだろう。
「降参だ。教えてくれないか」
意地を張っても仕方ないので、素直に白旗を上げた。
「わたしは……」
呟くような声に、自然と腰を折って顔を近付ける。
その首にするりと小さな手をかけ。
「西武池袋みたいになりたいです……」
「!」
驚きに目を瞠ると、柔らかな感触が頬に当たる。
「サンタにお願いしてきますから、待ってて下さい!」
すぐに体は離れて。
もうホームの端へと駆けてゆく。
「西武有楽町!」
「じゅんかいにいってきます!」
ほがらかに応えて、走り去っていった。
「西武有楽町の欲しいものは、私……?」
呆然と呟く。
困る。
それでは誰も買いに行けない。
まだ駅とか車両とかの方がよかった。
西武池袋は珍しく戸惑いの表情を浮かべて立ち尽くした。
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