待ってなんかいない





コートの合わせ目から容赦なく寒風が吹き込んで、西武池袋は肩を震わせた。
ベンチに腰かけて、投げ出した足をいらいらと組み替えた。
上り方面に向きかける視線を剥がし、立てた爪先を観察する。
だいたい石神井公園は寒すぎると思う。ホームの先端は遮る壁も、周囲に高い建物もなく、風が吹き抜け放題だ。
「……いや、寒くなんてない」
鳥肌を立てる肌を無視して呟く。
運休の連絡は30分前に来た。
地下鉄のくせにダイヤ間隔のあるあいつは、車両点検だなどと困ったように聞こえないへらりとした口調で伝えてきた。
勿論電話はすぐに切ってやった。
それで、新木場行きを運休にして、することがなくなって石神井でぶらぶらと足を遊ばせている。
せめて練馬まで走ればいいのにという声があるのを知っている。 けれど、練馬ですぐに折り返せる訳もなく、その他もろもろの面倒があって、やっぱり黙って運休にするのが一番効率的なのだ。
敬愛する会長の名にかけて、自分達は常に最善を目指さねばならない。
なのに。
あのいつもへらへらしているあいつは運休なんて恥ずかしい事態を引き起こしてくれる。
「そろそろ、か……」
顔を上り方面に向けると、伸ばした前髪がさらりと風になびいて視界を遮った。
「…………!」
いらついて、ばさっと頭の後ろへと掻き上げる。今の髪型は気に入っているが、時折腹立たしい。だからといって切る気はないが。
待つつもりなら練馬にいるべきだということぐらい分かっている。
「……待ってなど、いるワケがない」
爪先に向かって呟く。
空は青く高くて、とても穏やかで暖かそうに見えるけれど、実際は寒風が服の下の皮膚を凍えさせる。
「遅い……」
呟いた時、列車の音が聞こえた。
シルバーにイエローのラインが入った車体。
「…………っ!!」
がばっと立ち上がった。勿論足は肩幅に開いて。手は腰に。
「遅い!!」
「ごめんごめん」
やっぱりへらりと笑いながら現れる。
「ごめんで済むか!」
「悪かったよ。……ほら、テロとかだったらやばいワケじゃん?それで念の為に全線止めて……」
「それで?」
「復旧したから連絡に来たら、練馬にいないし」
「何故練馬にいなければならない!」
「あ、あれ?」
ぴしゃりと言うと初めて困った顔をした。
「だって、いつも練馬で待っててくれるから……」
「待ってなんかない!」
必要以上に大きな声に自分の方が驚いた。かっと頬が熱くなる。
けれど、相手はへらりと笑ったままで。
「は、走れるんなら、さっさと走れ!運休なんて、堤会長に合わせる顔がない!」
早口で言い切って、くるりと背を向ける。
やっぱりへらへらと笑ってる気配がする。
「は、早く行け」
「うん、行くね。じゃあ、後で」
「後でって何だ!」
声を張り上げながら、どうしようもなく耳が熱くなるのを抑えられなかった。





ブログからサルベージ。 ヘタレ×ツンデレが好きです。
石神井公園ホームはまじで寒いです。



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