革靴の靴音も高く近付いてくる人物に、有楽町は驚いた。
池袋は池袋でも、新線池袋駅。
彼が来る場所ではない。
かっきり3メートル手前で足を止める。
勿論仁王立ち。
「貴様、こないだの意趣返しか!?」
「はい?」
開口一番怒鳴られて、意味が分からない。
「おかげでダイヤ変更を余儀なくされた!」
「ああ……」
線路内点検を行った都合上、有楽町自身も運休で、そうすると接続している他路線にも影響が及ぶ訳で。
「それはごめん!でも、こないだのって?」
まず両手を合わせて謝ってから様子を窺う。
「この前!事故で!」
ぷいっと顔を背けてしまう。
金色の髪が踊って、つい見とれてしまった。
「……いや、それはそれで。今回は別件だから……」
「当たり前だ!同じ奴が何度も人身事故を起こすか馬鹿者」
偉そうな態度で胸を張る。
ふと意地悪心が浮かんだ。
「……じゃあ、乗り入れやめる?」
「え」
あまりに予想外のことだったのだろう。
一瞬、無防備な傷ついた顔を見せた。
――それって反則。
「貴様がそのつもりなら、こちらも――」
「冗談だよ」
ようやく自分を取り戻した西武池袋がふんぞり返った時、有楽町はあっさり告げた。
「何だと?」
「今更、そんなことできないって」
「貴様、馬鹿にしてるのか?」
思いきり剣呑な声と表情。
怒らせたかな、と思う。
だけど、さっきの顔があまりにアレで。
「ごめん。だって、いつも迷惑かけてるからさ」
だから、下手に出る。
「自覚してるんじゃないか」
「うん。なるべく早くするから」
「分かればいい」
あんな顔が見れるなら、たまには運休もいいかもしれないと思ったのは秘密だ。
思わず頬が緩んでしまって、また怒鳴られたけれど、でも今日はちょっとよかったかもしれない。
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